2013年4月21日日曜日

吹雪の夏山での幻覚

幽体離脱を経験した時も死とは隣合わせだったが、こちらも死に近かった・・

もう何十年も前の事、学生だった私は友達と二人で北アルプスの白馬岳に登った。下山するとき、吹雪になってしまった。下山路は右側は比較的なだらかだが、左側は急な崖が谷底まで続いていた。雪はその谷底から上に向かって吹き上がっていた。視界は悪く、二、三メートル先を歩く友達の背中が霞んで見える程だった。

吹雪はみぞれ混じりだったと思う。足がびしょびしょになった。
私は、その時ポンチョしか雨具を持っていなかった。ポンチョは足を覆うようにはできていない。下から吹き上げて来る吹雪には殆ど役に立たなかった。膝から下は完全に濡れ、冷たい水が登山靴の中まで入って来た。足が冷えて殆ど感覚が無くなっていた。

一刻も早く下山して、体を温めたかった。そのような状態で歩き続けていた・・・相変わらず吹雪は酷く、友達の姿以外は真っ白で何も見えなかった。そんな時、二、三メートル離れた左側に雲の切れ間が見えた。雲の切れ間は明るくて、一寸下に家が見えた。家は日の光を浴び輝き、何ともいえない温もりを感じた。こっちに行けば暖かそうな家に行ける・・体も温まってきたように感じた。

その時、もう一人の冷静な自分がいた。今自分は、三千メートルの山の崖っぷちを歩いている。左の方に足を置いたら、谷底に落ちてしまうではないか。こんな所から家が見える訳が無い。・・・辺りは吹雪の山に戻っていた。

それから数時間後、私達は無事に下山した。登山靴を脱いでみると、靴下はびっしょりと濡れ足の感覚は全く無かった。寒さとほっとしたのとで、体ががたがた震えた。

あの時は、寒さと疲労の極限状態の中で幻覚を見たようだった。遭難一歩手前だった。幽体離脱を経験した時もそうだったが、両者に共通するのは、その時気持ち良く感じた事だ。誘惑に負けていたら死んでいたに違いない・・思い出すとぞっとするが、死ぬ時は案外気持ちがいいのでは、と思うようにもなった。

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